
機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシア(FD)とは内視鏡検査などで調べても、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんといった器質的な異常がないにもかかわらず、胃痛(みぞおちの痛み)や胃もたれ、胃の膨満感などの症状が慢性的に起こる病気です。胃の運動機能の異常という概念がまだなかった時代は、このような病態は一般に慢性胃炎やストレス性胃炎、神経性胃炎と診断されていました。しかし胃に炎症がなくても症状があることや、逆に胃に炎症があっても症状がないことも多く、胃の炎症は必ずしも症状と関連せず、胃のはたらき(機能)が悪くなることでこうした症状が起こることがわかってきました。このことから2013年に「明らかな器質的な原因となる病気が認められないにもかかわらず、慢性的にみぞおちを中心とした痛みや胃もたれ等の上腹部症状を起こす病態」を機能性ディスペプシアと定義し、以来、疾患としてとらえて、それぞれの症状に合わせた治療が行われるようになっています。“ディスペプシア”という言葉は、元々は「消化不良」を意味するギリシャ語が語源の医学用語です。
FDは、消化器内科の領域において最も頻度が高い疾患で、慢性的に辛い症状が続き生活の質(QOL)が著しく低下します。原因は複数あり多彩な症状を呈するため治療もそれぞれ異なりますが、適切な治療によって症状が改善すれば、QOLの回復も期待できます。とくに症状の強い方は、我慢せずにお早めの受診をおすすめします。
この他にも倦怠感、肩こり、手足の冷え、立ちくらみ、背部痛などの全身の不定愁訴をともなうことがあります。また、精神症状として、不安、心気(心身のささいな不調で重篤な病気にかかっているのではないかという思い込み)、抑うつ、焦燥感などが現れることがあります。
胃は、食べ物を貯留するために緊張を緩めて膨らみ(胃適応性弛緩)、胃の蠕動運動で適量ごとに十二指腸へ食べ物を送り出します(胃排出能)。FDは、こうした胃や十二指腸の運動機能に異常が生じることで発症すると考えられており、その病態はとても複雑です。一つの原因だけではなく、いくつかの要因が絡み合って症状が起こり、また、それぞれの原因が互いに影響し合い、症状を悪化させることも少なくありません。
過食や高脂肪食、不規則な生活、過労や不眠、精神的ストレスや不安、過度の飲酒・喫煙などによって胃や十二指腸の運動機能が阻害されたり、少ない刺激で痛みを感じやすくなる知覚過敏を起こしたりします。胃適応性弛緩に異常を来すと、少量食べただけで満腹になってしまう早期飽満感が出現しやすく、胃排出能に異常を来すと胃もたれや知覚過敏によるみぞおちの痛み、胸焼けなどを起こしやすいといわれています。また、虐待などのトラウマ、胃酸過多、ピロリ菌感染や感染性胃腸炎、遺伝、胃の形状なども要因として挙げられています。
FDは原因、症状ともに多彩で、治療法も症例によってそれぞれ異なります。生活習慣の改善のみで軽快する方もいれば、一般的な胃薬で治る方もいる一方、抗うつ剤や漢方薬にしか反応しない方などもいらっしゃいます。治療は、内服治療(症状改善)と食事・生活習慣の改善が基本となりますが、要因は患者様一人ひとりで異なるため、しっかりとご相談しながら治療方針を決めていきます。
生活習慣の改善は、症状の緩和・再発防止にとても有効です。FDは自律神経の乱れによって症状が誘発されていることが多くあります。生活リズムが乱れている場合には、日常に十分な睡眠・休息と、栄養バランスの良い食事、適度な運動をプラスして生活リズムをつくり、自律神経の正常化を促しましょう。また、できるだけストレスを溜めない暮らしを送ることもポイントです。「寝つきが悪い」「お腹が痛くなりやすい」「イライラしやすい」など、何らかのストレスサインがあったら、一休みして気分転換をしましょう。ストレスを無くすというよりも、日頃から“ストレスと上手に付き合っていく”という意識を持つことが大切です。喫煙習慣のある方は、できる限り禁煙することをおすすめします。
FDの予防には、食習慣の改善がとても重要になります。過食・高脂肪食・過度のアルコール・不規則な食事を普段から避けるようにしましょう。ただ、過食を改善する場合、毎日お腹いっぱい食べていた方に、急に厳しい制限をかけてしまうと、FDの原因にもなるストレスが大きくなります。まず、食べ過ぎの回数を減らすことから始めて、その後少しずつ食事のバランスも意識していくとよいでしょう。高脂肪食は胃の動きを低くさせる作用があるため、胃もたれや張り・違和感などの要因になります。とくに揚げ物やクリームの多いデザートなどは控え、2食続けて食べることは避けましょう。また、アルコール、香辛料、高カフェイン(ブラックコーヒーなど)は、胃粘膜を刺激して酸の分泌が多くなるため、症状が出ている際には控えましょう。
早食いをしないことも大切です。食べ物をよく噛まず大きいまま胃に入れたり、入ってくる量が多かったりすると、とどまる時間が長くなり消化に時間がかかるため、胃もたれや張りの要因になります。胃酸の分泌も増加し、胃痛の要因にもなります。胃は食事開始から15~20分で動きが強まるといわれており、この胃動きに合わせてゆっくり食べることで、症状が出にくくなります。さらによく咀嚼することで、迷走神経という自律神経が刺激され、胃の動きがよくなり好循環が期待できます。
FDの症状には、胃のはたらき(機能)の異常が症状として現れる場合と、通常の胃のはたらきを敏感に感じて症状が現れる場合(知覚過敏)があります。後者はストレスなどによって様々な刺激に対して敏感になることで起こります。FDの薬物療法にはこれらの機序に対応する2通りのアプローチがあります。
一つは胃で起こっている異常を改善する方法です。胃のはたらきに異常を起こす主な刺激は、胃の動きと胃酸です。胃は食事をとると胃壁の緊張が緩み広がることで食べ物を溜めて、その後、食物を十二指腸へ送り出します。この一連の動作がうまくいかないと、張りや痛みなどの症状が起こります。それを改善するのが消化管運動機能改善薬です。薬剤にはアコチアミド、モサプリドクエン酸などがあります。また、胃酸が過多に分泌されることで痛みが起きたり、十二指腸に多くの胃酸が流れ込むことで吐き気が起こったりします。この胃酸の分泌を抑えるのが胃酸分泌抑制薬です。薬剤にはプロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2ブロッカー、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)があります。
もう一つのアプローチは、敏感になっている状態を改善する方法です。脳の敏感な状態を抑えることは難しいですが、一部の抗不安薬や抗うつ薬にFDの改善効果があることが示されています。また、漢方薬のなかには粘膜の知覚過敏を抑えたり、胃の動きを改善したりするものもあります。なお、ピロリ菌感染がある場合は、ピロリ菌関連ディスペプシアの可能性を考慮して除菌療法を行います。除菌に成功することで症状の改善が期待できます。
当院では、患者様の症状やお悩みを詳しくうかがった上で処方のご相談をしています。ご要望がありましたら、お気軽にお尋ねください。
FDは、胃の粘膜に異常が認められないにもかかわらず、胃もたれ、みぞおちの痛み、早期満腹感をはじめとする腹部症状を呈していることが前提となる疾患です。下記のような検査をしても疾患が特定できず、慢性的に症状が続く場合にFDと診断されます。
問診
まず、腹部症状をはじめ、症状が出ている期間や頻度、食生活、体重減少の有無などを確認します。「腹部症状」は、胃痛や胃もたれが代表的ですが、患者様によって様々な言葉で表現されます。専門的には「食後のもたれ感」「早期飽満感(食事開始後すぐにお腹がいっぱいに感じられ、それ以上は食べられなくなる感じ)」「心窩部痛(みぞおちの痛み)」「心窩部灼熱感(みぞおちの焼けるような感じ)」などに分類されます。FDは、器質的な疾患がなく、このような症状が6カ月以上前から始まり、かつ直近3カ月間に週に数回程度症状がある状態と定義されています。
胃内視鏡検査・ピロリ菌検査
胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃がんなどの疾患を除外するため胃内視鏡検査を行います。胃内視鏡検査は、粘膜を直接観察できるため、ピロリ菌感染を含めて粘膜に異常があれば、その場で組織を採取して確定診断することができます。
腹部エコー・血液検査
みぞおち付近には、食道、胃、十二指腸以外にも肝臓・胆のう・膵臓といった臓器があり、これらに異常があるとFDと同じような症状が現れることがあります。腹部エコーや血液検査などで周辺臓器の状態を確認します。必要に応じて腹部CT検査を行うこともあります。
当院で行う胃内視鏡検査は、経鼻内視鏡や鎮静剤を使用するため、患者様にとって苦痛の少ない検査が可能です。胃内視鏡検査が初めてという方でも安心して検査を受けられる体制を整えておりますので、胃やみぞおち周辺に不快感を覚える方は、お気軽にお申し出ください。
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